読書感想文


双星記 1 千年に一度の夏
荻野目悠樹著
角川スニーカー文庫
2000年9月1日第1刷
定価619円

 新シリーズの開幕。
 二つの太陽が近接し、それぞれの恒星系にある惑星に同一種の人類が生活している宇宙が舞台のスペースオペラ。二つの太陽が相互に力をおよぼし、千年に一度という太陽大接近の時期が近づいてきた。β太陽にある惑星ベルゼイオンは、α太陽にある惑星アル・ヴェガスへの移住を申し出るがはねのけられる。ベルゼイオンの大統領ジェニファー・クローゼンヴァーグはアル・ヴェガスに対し宣戦布告する。13の宝石からなる艦隊の司令官はエリート揃い。しかし、アメジスト艦隊のランディスヴァーゲン提督だけが経歴不明、軍人らしからぬ奇矯ないでたちで、他の提督の反感を買う。その副官に指名されたヴェルスターペンは地方の士官学校出身で真面目一方。アル・ヴェガス侵攻のために艦隊は旅立つが、その途上に待ち受けていたのは機雷網であった。アル・ヴェガス側では経理役人出身のラインバックがなぜか総司令官として抜擢され、ベルゼイオン艦隊を待ち受けていたのだ。艦隊のピンチにランディスバーゲンが打った手とは……。
 素人の提督に率いられるプロ集団というユニークな設定と、個性的なキャラクターの活躍がうまくマッチしていて、なかなか楽しい物語となっている。特に、数多く登場する人物たちの書き分けがしっかりしていて、それらが有機的に動いていく様子はなかなか読みごたえがある。思考の硬直したエリートと柔軟なアマチュアという対比も、陳腐になる一歩手前でとどまっている。
 「銀河英雄伝説」の系譜をひく宇宙戦記ものといえるが、いわば第二世代といえる作者の筆致は、アニメーション的な感覚もとりいれられているように思う。つまり、映像が頭にすんなりと浮かびやすいように書かれているのである。
 しっかりとした設定と緊迫したストーリー展開は、次巻以降にも期待を抱かせる。特に本格的な戦闘をどのように見せてくれるかが楽しみだ。

(2000年12月27日読了)


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