読書感想文


黒塚
夢枕獏著
集英社
2000年8月30日第1刷
定価1900円

 陸奥を逃亡していた九郎判官義経と武蔵坊弁慶の主従は、黒蜜と名乗る女性の家に宿を求める。二人をかくまった黒蜜は、やがて義経と愛し合うようになる。彼女が秘密にしていた小部屋をのぞいた義経は、そこで彼女が人の生き血を啜るのを目撃する。彼女を愛していた義経は自分も吸血鬼となる決意をするが、完全に変化してしまう前に、彼を裏切った弁慶に首を刎ねられる。義経の首は、胴体をすげ替えて1000年以上の時を黒蜜とともにする。やがて、地異天変のために奇形の人類が混在する時代がおとずれた。クロウと呼ばれる義経は、自分と黒蜜の関係などの記憶を全て失い、関西を支配する赤帝と呼ばれる人物のもとにいた。そこへ黒蜜と会わせようと申し出る人物が現れ、クロウは拉致されるように東へと旅立つ。クロウと黒蜜はどのような形で再会するのか。彼らを待ち受ける運命は……。
 安達ヶ原の黒塚伝説に吸血鬼を組み合わせた秀逸なアイデアと、記憶をなくしたクロウと永遠に彼を愛しつづける黒蜜の愛の物語で一気に読ませる。
 特に、未来の荒廃した社会にはいる以前の、黒蜜と義経が旅人をとらえながらひっそりと生き続けていくところなどは、伝奇小説としてどのような傑作になるかと期待を抱かせる。それだけに、未来社会が舞台となった時、クロウと彼を狙う者たちのアクション中心の描写となってしまったことが惜しまれる。もっと黒塚伝説や吸血鬼伝説を全面に押し立てて悠久の時間を生きる者の苦悩などを掘り下げて描いてほしかった。
 題材を扱う料理のうまさはさすがプロと唸らせるものであるが、そのうまさがかえって仇となってしまったように感じるが、どうだろうか。

(2000年12月31日読了)


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