読書感想文


M.G.H.楽園の鏡像
三雲岳斗著
徳間書店
2000年6月30日第1刷
定価1600円

 第1回日本SF新人賞受賞作。
 工学部で助手をしている鷲見崎凌は、医学生の従妹、森鷹麻衣に、強引に新婚旅行に連れていかれる。行き先は宇宙ステーション〈白鳳〉。彼はそこで殺人事件に遭遇する。被害者は宇宙ステーションの研究所で副所長をしている瀧本。その死体は、無重力空間で墜落死していたのだ。さらに、凌たちと同行していた新婚旅行カップルの夫、加藤浩一郎も妻の優香の目の前で突如肺胞破裂を起こして死んでしまう。起こり得ない場所で謎の死をとげた二人の死体第一発見者として、凌は否応なく事件に巻き込まれていく。研究所長の朱鷺任、瀧本の息子でミュージシャンの拓也など、様々な人間関係が入り乱れる中、凌は真相を解明できるのか。
 手堅くまとまったSFミステリー。SFとしての設定でなければ起き得ない殺人事件で、非常に達者な筆の冴えを見せている。そういう意味では、こういった傾向の少ないSF界では貴重な作品であるとはいえるだろう。小道具としてちりばめられている人間の姿をしたネット端子なども、いい雰囲気をかもし出している。
 ただ、私にとって何か物足りなさを感じさせてしまうのは、そのテーマが広がりを持っていないことだ。ミステリとしての謎解きの部分がどうしても主になってしまい、せっかくちりばめられている小道具がSFらしさをかもしているだけにとどまり、宇宙空間での殺人のもつ意味に直接つながっていかないうらみが残る。
 作者は既に電撃文庫でデビューしていてそれなりのキャリアはあるけれど、まだまだ新人であることは間違いない。新人が最初から老成していてはいけないということはないけれど、完成と老成は違うのだ。どうもベテランが書いた作品のような雰囲気がある。もっと大きな飛躍の可能性を秘めた作品を今後は発表してほしいものだ。

(2001年1月1日読了)


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