読書感想文


百怪祭
朝松健著
光文社時代小説文庫
2000年11月20日第1刷
定価629円

 室町時代を舞台にした時代伝奇小説を集めた短編集。
 室町時代というそれまでの秩序が壊れ、新しい文化や風習が生まれ、現代に直接つながるものも多く残る時期は、物語の宝庫でもある。
 作者は、真言立川流という異端の邪教をキーワードにして、南北朝時代から桃山時代に至る室町期の多様な時代の断面を彩る怪異を創造する。ここでの立川流は、作者の他の作品におけるクトゥルー神話と同じ位置付けがされていると考えていいだろう。
 性交による法悦を至高のものとするこの密教はいろいろな作家が題材にしているが、本書で描かれるまがまがしさは、そこに由来するものではないだろうか。
 集中での私のベストは、書き下ろしである、魔物と契約して天下を取ろうとする戦国の梟雄を描いた朝松版ファウスト「魔蟲傅」。足利義政、義視兄弟と日野富子の相克を一枚の鏡の力で浮き彫りにする「飛鏡の蠱」。世阿弥の演技を至上のものとする弟子がそこに神を見つけだそうとする「『俊寛』抄−または世阿弥という名の獄−」である。
 いずれも破壊された秩序の中から立ちのぼる邪悪をテーマに描かれており、人の心の弱さというスキをついて現れる〈逢魔が時〉がみごとに表現されている。
 本書で扱われた室町時代という舞台が、今後の朝松時代伝奇小説の世界をどのように広げていくのか楽しみである。

(2001年1月16日読了)


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