室町幕府三代将軍足利義満がいまわの際に残した言葉、それは「〈ほしみる〉を探し出し焼き尽くせ」というものであった。四代将軍義持は、一休宗純に〈ほしみる〉を探し出すよう命ずる。〈ほしみる〉を手にしたものは、天下を逆しまにし秩序も法も失われてしまうという。義満の詠んだ和歌を手がかりに、一休は滋賀へとおもむく。道中助けた曲舞一座の女、吉野、そして役者と見まがう美男の武士、蜷川親実も旅に同行し、一同は伊豆へ向かう。彼らの居場所を探り、〈ほしみる〉を手に入れようとする謎の男女が登場し、妖かしの術が一休を襲う。〈ほしみる〉とはいったい何か。一休の使命は果たされるのか。吉野や蜷川たちの正体は……。
待望の書き下ろし時代伝奇小説。後小松天皇の胤とされる一休伝説に、将軍義満の野望、真言立川流の秘儀など様々なアイデアを盛り込み、派手なアクションを加味した一級のエンターテインメントに仕上がっている。特に〈ほしみる〉の隠された場所などは、SF的な時間空間に関するアイデアが盛り込まれていて時代伝奇小説をあまり読まないSFファンにも楽しめるだろう。
本書は作者がこれから描き出そうとしてる室町時代を舞台にとった時代伝奇小説世界の一環をなすものだと思われる。特に主人公の一休については、その影の部分の秘密を作者はあえて小出しにしているようで、今後一休を主人公にしたシリーズとして展開されるものと考えられる。本書を読むと、いろいろな意味で山田風太郎の影響を感じさせるけれど、そこからどれだけ独自の世界を構築していくのか、今後も目が離せないシリーズとなりそうだ。
(2001年1月17日読了)