新シリーズの開始である。
完璧な予知能力者がいるという情報を受けて、超常現象の専門誌『ラー』の編集者、加々美涼子は、鴇上翔という少年の取材に行く。翔によると、彼の予知能力は確定していない未来のうち望ましいものを選択することにより、予知をしたように見えるだけだという。そこに現れた新興宗教〈MIA〉青年部の幹部、邦津数馬は、涼子に深入りしないよう警告する。翔の予知通りに編集部に爆弾が送られてきたことにより、涼子は彼に深い関心を持つようになる。しかし、防衛庁の建部による圧力で、彼女が〈MIA〉に接触することは禁じられ、後藤という初老の刑事の監視までつく。そんな中で、涼子は翔の呼び出しを受け、秩父山中に連れていかれる。そこで彼女の見たものは……。また、翔は〈MIA〉の待ち望む彌勒仏なのか……。
予知能力を量子論的に解釈するアイデアのおもしろさ、宗教や超能力を登場させながら、それを絶対的なものにしてしまわない冷静な視点など、注目すべきシリーズの開幕である。ここではSFの面白さである視点の相対化、そして科学的な説明などが展開されていて、無条件に呪術が登場する比較的手軽な伝奇アクションとは一線を画している。
あるいは、雑誌の編集者を狂言回しに使った社会派小説として読むことも可能だろう。
様々な要素を翔という主人公の存在によりあわせていく手際などに手練の作者らしさを感じる。神仏に対して続刊以降ではどのようなアプローチをしていくのか、楽しみである。
(2001年1月18日読了)