読書感想文


かめくん
北野勇作著
徳間デュアル文庫
2001年1月31日第1刷
定価648円

 かめくんは「木星戦争」に投入するために作られたカメ型ヒューマノイド・レプリカメだ。でも、「木星戦争」は終わってしまったともまだ続いているともいわれている。かめくんはどこにも所属していない自由の身。だから倉庫会社の求人に応じて木星からの物資を整理する仕事をしている。ときどきザリガニ型の怪獣が出てくるので、戦闘カメの遠隔操作コクピットに座って退治したりする。かめくんは図書館が好きで、本を読むことで封印された記憶を取り戻そうとしている。図書館で働くミワコさんはかめくんにとてもよくしてくれるし、かめくんも幸せな生活をしている。でも、かめくんがこの町から去らなければならない日が近づいてきた。かめくんは何のために生まれてきて、何のためにこの町を去らなければならないのだろう。
 不思議な手触りの小説である。幸せとはなにか、戦争とはなにか、人と違うというのはどういうことなのか。いろいろな問いかけが、かめくんというキャラクターを通じて読者になされる。答えは読者が探すべきものだ。
 風刺小説、寓話、SF……。本書はどうジャンル分けされてもよい。かめくんがかめくんであってかめくんでしかないのと同じように、本書は北野勇作の小説以外の何ものでもない。
 読了後、なんとも切なくなってしまう。多くの人に読んでもらいたい秀作である。

(2001年1月21日読了)


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