ここでいう「バカ」とは、哲学や数学や難解な論文を読むのが苦手な人のことである。抽象的な論議が苦手な者はどのような読書をすればよいのか、というガイドブック。であるかに見せかけて、実は本書は実証をともなわない空理空論を説く「知識人」批判の書なのである。
著者は「『バカ』は歴史を学べ。歴史的なものに対する知識を蓄えろ」と主張する。推測や思いつきでしたり顔をする学者を攻撃する。そういう意味では、本書は実に主観的な思想書でもある。
しかし、歴史を知る窓口として小説でも学習マンガでもよいとする著者の主張には首肯すべき部分が多い。要は基礎知識があればよいのだ。その基礎知識をもとに思考を深めていけばいいのだ。ところが、世に氾濫するブックガイドは、基礎知識がないと理解できないものをつい推薦してしまっている。
タイトルといい、「読んではいけない本」ブックガイドといい、著者はかなり露悪的な姿勢で本書を書いている。しかし、本書で指摘されてることは正論である。正論を刺激的な書き方をすることによって異端の書のように見せかけた、著者はそうとうの策士なのである。
わからないものはわからないと正直に言おう。そして、わかるために努力をしよう。そのためには基礎知識を身につけよう。そのためにはどうしたらいいか。それの答えが本書なのだ。
ただ、「バカのための小説ガイド」が必ずしもバカにわかる本ばかり出ないところに著者の限界を感じたりもしたのだが……。
どちらにせよ、なかなか刺激的で面白いガイドブックであることだけは確かである。
(2001年1月22日読了)