高校生の野々村武志が乗った路線バスはなんと30年前のバスだった。そこに同乗していた女子高生は自分の母親、照美の若き日の姿。そして、そのバスは時空を超えて何もない砂漠地帯を走ってしまう。兇悪な運転手、青首をはじめとして、知識は豊富だが実行力のない作家の家路、プライドの高い暴力団員の登美野など、やってきた時代も職業もバラバラな人々を乗せて、バスは砂漠をひた走る。砂漠の神に導かれ悪魔を倒すと言う白人女性ドナと出会った武志は、実はこの世界では超人的な力を秘めていて、ドナとともに悪魔を倒すことになる。バスに乗り込んだ人々の運命は。そして武志と照美の危険な恋愛感情の行方は……。
期待しないで読んだけれど、やはり古臭さが漂うのはいかんともしがたい。登場人物たちの推理で、自分たちは何者かによって遊ばれ観察されているのだという設定は提示されているものの、結局タイムスリップの謎は解明されないまま。シリーズ化を匂わせるような展開になっているが、果たして続編は出るのだろうか。
作者のあとがきによると、本書のアイデアは高校時代の習作のものを使用したという。SF黎明期に本書が書かれたならば、それはそれで時代を彩る一冊となっただろうが、現時点で新作として書かれる必然性があったのだろうか。
途中で、トランス状態に陥った主人公の姿を冷静に批判するような描写があるところが、作者の通り抜けてきた道を示すものと感じられて興味深い。が、それも作者に関する知識があるからそう感じるだけなのかもしれない。
ベテラン作家の老いてすり減った感性を突きつけられるのは、いささか辛い。若い読者が本書を手にしたら、また違う感想をもつのかもしれないが……。
(2001年2月7日読了)