劇作家である著者の「づくし」シリーズの一冊。
架空の道具を創造して、その民俗学的考察をまことしやかに展開する。
二人きりで気詰まりにならないようにそばに置いておく人形「おいとけさま」。遊女が自分の客である印に痣をつける「くちおし」。〈ゆまみ〉という風呂にいる魔物から身を守るために作られた鯉の形をした「ゆこい」……。
もっともらしく語られるこれらの道具は、人間が実際に使用してきた道具の有用性という虚飾を剥ぎ取り、どのような道具も視点を変えれば実は無駄なものなのだということを暗示する。そして、その無駄なところにこそ文化の本質があることを示唆しているのである。
しかし、この馬鹿馬鹿しいほどにもっともらしい法螺の吹き方のうまさには舌をまく。豊かな想像力と緻密な論理を組み立てる知性と卓抜した表現力の産物としかいいようがない。これ以前に書かれた「虫づくし」を読んだ時も感心したが、本書のように「道具」を対象にした場合、この方がその風刺性が無理なく表現されているように思う。
本書に登場する〈道具〉は全てフィクションである。一つだけ本物があるけれど、それはそのものを使えなくなった時代を想定して書かれているため、それがまるで空想の産物であるかのように感じさせる。そこらへんのテクニックもうまい。そういう本書を「ノンフィクション文庫」の一冊として刊行した編集部もなかなか粋であるように思うのだ。
(2001年2月9日読了)