作者のライフワークである〈人類圏〉シリーズをまとめた短編集。
人類のみの生命を奪う知的生命体ファントムに対抗するために人間の脳波を用いる「脳光速」、謎のメッセージを送りつけてきた異星人に対して蘇った空海がその法力で活躍する勇姿を描いた「銀河帝国の弘法も筆の誤り」、窃盗で逃亡した女性犯罪者を首領として頂くアンドロイドたちの謎を解く「火星のナンシー・ゴードン」、訓練中に事故で宇宙を放浪し神格化される宇宙飛行士の物語「嘔吐した宇宙飛行士」、知的生命を食べ尽くす異星人が来襲したことを〈呪詛〉という通信網で伝えていくという秀逸なアイデアが光る「銀河を駆ける呪詛」の全5編。いずれも作者の力量を十二分に発揮したそのスケールの大きさとディティールの緻密さで読ませる傑作揃い、珠玉の短編集である。
読了後、おそらく誰もが脱力してしまうであろう。しかし、その脱力は快く、麻薬のようにじわじわと読み手にきいてきて、田中啓文なしには暮らせない体になってしまうことは請け合いである。
装丁、献辞、そして各短編に付けられた五人の作家による解説、作者のあとがきに至るまで、これ全て読者を面白がらせずにはいられないサービス精神に富んだもので、作者と編集者の本書に賭ける意気込みが伝わってくる。
ともかく、だまされたと思ってぜひ一読していただきたい。だまされたと思ったら、それはだまされたあなたが悪い。私は知らない。
(2001年2月22日読了)