元NHK大阪放送局(BK)の演芸プロデューサーであった著者が、自分の出会った演芸に関わる人々の思い出を綴った一冊。
花菱アチャコ、浪花千栄子、二代目渋谷天外といった喜劇役者。橘圓都、六代目笑福亭松鶴ら落語家。捨丸・春代、ワカサ・ひろし、光晴・夢若などの漫才師。梅中軒鶯童、四代目吉田奈良丸ら浪曲師。行友李風、長沖一、秋田實などの劇作家や漫才作者。そしてBKの名プロデューサー佐々木英之助。その交友範囲は多岐に渡り、貴重な証言が本書には数多く記録されている。著者が実際に見聞したことに加え、とりあげられた人々の残した著作などからも多くが引用され、多角的な視点から芸人さんたちの生身の姿が浮き彫りにされていく。
タイトルはかつてBKで製作された茂木草介作のドラマ「けったいな人々」からとられたものだが、著者はその言葉を「おかしな人たち」という意味で使用したのではなく、「希代な人々」という意図で用いているという。まさにその言葉通り、二度と現れない「けったいな人々」ではないか。
著者は芸人さんたちを描くことにより、昭和30年代の大阪の人情を描き、今に変わらぬ人の心を描いている。私はここに描かれた人々の芸に直接触れたことがないが、著者のような立場にいた人が本書のような証言を残してくれたおかげで、その空気に少しでも触れられたような気がした。
できれば、著者には第2第3の「けったいな人々」を書き残してもらいたい。映像や音声で残る芸人さんの姿とはまた違う存在感を、もっともっと感じていたいと思うのである。
(2001年2月23日読了)