読書感想文


陰陽ノ京
渡瀬草一郎著
メディアワークス電撃文庫
2001年2月25日第1刷
定価610円

 第7回電撃ゲーム小説大賞金賞受賞作。デビュー作である。
 平安時代、陰陽師の賀茂家に生まれながら陰陽寮に入らずに文章の道を選んだ慶滋保胤を主人公に、死人の怨念を利用して播磨の外法師、弓削鷹晃を呪殺しようとする外法師、正滋との戦いを描いたもの。アクションあり、呪術合戦あり、ほのかな恋物語ありと、様々な登場人物を駆使したストーリーは、新人とは思われぬ達者なものがある。
 特に平安時代を舞台にした陰陽師ものはもう出尽くした感があり、題材としては手垢がついているという印象が強く、そこに真っ向から挑んできちんとしたものを書いたというだけで評価したい気持ちになる。
 本書では安倍晴明が脇役として配置され、主役を本来陰陽師としては扱われない慶滋保胤にしたというところに工夫がある。また、陰陽道だけではなく鬼や天狗など妖しの力をうまく使っている。最近は陰陽師というだけでスーパーマン的な力を持たせる作品が目につくけれど、陰陽師の本来の役割をきちんと描いているところにも好感が持てる。
 もちろん新人にありがちな書き込みのバランスの悪さなども散見させられるのだが、小説そのものに力があり、読んでいる最中はそれほど気にならない。ここらあたり、デビュー作とはいえ完成度の高さを感じさせる。
 今後、どのような方向でその世界を広げていくか興味がある。できればシリーズものを連発せず、一冊ずつ世界を構築していって幅広い活躍をしていってほしい。それだけの実力を感じさせる作家の誕生である。

(2001年2月25日読了)


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