読書感想文


背中にはしまもよう
三鷹うい著
角川ティーンズルビー文庫
2001年3月1日第1刷
定価438円

 第1回角川ルビー小説賞ティーンズルビー部門優秀賞受賞作。
 美人天才科学者の叔母、日菜に呼び出された少年、陽和樹は、そこで浮き世離れした美少女、トラに出会う。トラは日菜の開発した技術で猫から人間に変えられているのだという。人間の常識とは少々ずれているトラの言動に戸惑う和樹。日菜が脳腫瘍の手術で入院している間、和樹はトラを預かるはめになる。そのトラの命を何者かが狙う。その正体は、そして目的は……。腹に一物ある自衛官、佐々木の護衛があるが、和樹は安心できない。そして、和樹とトラはついに誘拐されてしまった……。
 人間の姿はしているが視点は猫という存在によってひき起こされるカルチャーギャップというアイデアは悪くない。ただ、本書はそのアイデアを十分に生かすだけのストーリーを構築できていないように思われた。細部にリアリティを持たそうと書き込むところは密度が濃いのだが、それ以外のところとのバランスの悪さを感じる。なにより、根幹である「猫を人間にする新技術」の説明が一切なされていない。突飛な理論でかまわないから、そこらへんの記述をしっかりとしておけば、書き込みのバランスの悪さも感じさせなかっただろう。そいう意味ではもったいないといえる。
 やはり、アイデアが一つだけでこの分量は苦しい。短編ならそれなりによい密度になったのではないかと思われた。今後、この作者がどのようなものを書いていくかは本書を読んだだけでは予想しにくいが、どんどんアイデアを突っ込んでいくようにしていけば、着想自体は悪くないだけに、ユニークなものができあがるのではないだろうか。

(2001年3月1日読了)


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