読書感想文


ウィザーズ・ブレイン
三枝零一著
メディアワークス電撃文庫
2001年2月25日第1刷
定価610円

 第7回電撃ゲーム小説大賞銀賞受賞作。
 科学力の発達でついに理想郷を手に入れたはずの人類は、大気制御システムの暴走とそれに続く戦争という愚行で滅亡の危機に瀕していた。戦争に投入された〈魔法士〉たちは情報操作で物理法則さえ自在に操る能力をもっていた。〈魔法士〉の破壊的な力により、戦争は意味のないものとなり、世界に残されたのは〈シティ〉という閉鎖空間に住む人々とその周辺に小さな村を作って住む人々のみ。〈シティ〉に運ばれる実験サンプルの奪取を依頼された〈魔法士〉の天樹錬は、そのサンプルである少女、フィアを連れて村に帰る。錬の姉、月夜と兄、真昼はフィアの奪取を依頼した者の目的に疑念をもつ。一方強力な〈魔法士〉の黒沢祐一はフィアを〈シティ〉に取り戻すために動き出した。フィアは〈シティ〉の存亡に関わる秘密を持っているのである。フィアをめぐり、錬と祐一の戦いが始まろうとしてる。その影で、謎の依頼人が動き出す……。
 SF設定のユニークさ、キャラクター造形の確かさに加え、緩急のついた展開で読ませる。人間関係の織り成す綾をドラマチックに描いている。その人間関係のウェットな部分はよくいえば人情話のイキを持っていると言っていいのではないだろうか。私としては古い映画の一シーンを見ているような感じがしてちょっと古臭いような気もするのだけれど、若い読み手にはかえって新鮮かもしれない。
 アイデア、ストーリーの達者さからして、今後に期待のできる新人の登場であると思う。特にこの世界設定はなかなか魅力的なので、未来史の年代記シリーズとして本書とは違った時代と登場人物の活躍するものを読んでみたいものだ。

(2001年3月7日読了)


目次に戻る

ホームページに戻る