2000年10月に亡くなったミヤコ蝶々さんのエピソードを綴る。これは評伝ではない。長年蝶々さんとつきあいのあった著者自身の見た等身大の姿、そして若き日の蝶々さんを知る人たちから聞いた話などをまとめ、いろいろな視点から蝶々さんの真の姿を浮かび出させるように描いている。この構成がうまい。ベテランの放送作家である著者は、まるでドキュメンタリーを演出するようにまとめあげているのだ。
さらに、著者はちょっとしたことも証言で裏をとり、正確を期している。だから、本書は芸能史の資料としても価値が高い。埋もれていた事実なども発掘され、盛り込まれている。
一人の女としてのミヤコ蝶々、芸人としてのミヤコ蝶々、その実像は、どこか孤独の影がつきまとう。しかし、卓抜した芸がその影を隠してしまっていたのだと、本書を読むとわかる。それは、著者でなければとうてい書き得なかった姿なのではないだろうか。
書き手に人を得て、ミヤコ蝶々さんの実像が光彩を浴びて私たちの前に出現した。それは、死亡記事の見出しに「浪花のおかん」と書かれた姿ではなく、「をんな」の姿である。読んでいて胸が熱くなる好著である。
(2001年3月8日読了)