幼馴染み二人に告白され、友情が壊れていくことに悩む高校生の少女、菜緒。人間文明が破滅した後、〈パラダイス〉と呼ばれる都市から独立した異能力者たちの町〈シード〉のリーダー、レイ。二人はパラレルワールドで別の人格を持つ同一人物だった。戦闘の末に死を迎えたレイは、菜緒の人格をパラレルワールドから呼び出し、自分の体に移植する。突如別世界でリーダーの影武者とされてしまい戸惑う菜緒。レイと、そして〈パラダイス〉のリーダー、ジェイルだけが知る言葉「プログラム・パラダイス」とは何か。レイの体に入り込んだ菜緒が戦いの中で見い出したものとは……。
生きる目的など考えたこともない少女が、生死を賭ける場面に遭遇して成長していく姿を描いたもの。その意図は十分伝わっているのだが、本書をSFとして読んだ場合、設定に不完全な部分が多く、そのため展開にも無理が生じているように感じた。異世界ファンタジーならば無理なく読めただろうけれど、なまじSF的な設定にした分損をしているように思う。ただ、物語の鍵となる「プログラム・パラダイス」のアイデア自体は悪くない。理性と感情の二項対立をSF的な設定に託したものとして評価できる。
つまり、本書はアイデアの核となるところがSF的だったために、設定もまたSFとしなければならなかったけれども、作者があまりSFに通じていなかったので無理が生じたというように、私には感じられた。SFを書くには独特のセンスが必要なのだ。作者にはぜひそのセンスを磨いてもらい、再度SFに挑戦してほしいものである。
(2001年3月11日読了)