新シリーズの開幕。
引っ込み思案なOL月岡美前は、幼い頃から妖精が見える能力を持っており、それを隠すために目立たない行動を取るようになっていた。携帯へのしつこい無言電話に悩まされる彼女を守るために現れたのは、金髪の美青年、リン。彼の出現と相前後するように、何者かが彼女を狙う。時には暴走族を操り、時には鴉の群れを操り……。リンに保護された美前は、ターリと名乗る男から、彼女が古代ケルト神話の世界に住む女王の娘で心だけこちらの世界に連れてこられたのだと教えられる。そして、彼女は女王の跡継ぎとして〈輝きの野〉と呼ばれるあちらの世界に行かねばならないことも。こちらの世界から離れたくない美前はリンたちから離れて単独行動をとる。美前を追う新たな人物が現れ窮地に陥った彼女は……。美前は運命に逆らえず〈輝きの野〉に行くことになるのだろうか……。
ファンタジーの定石である現実世界と幻想世界の境界線。本書ではその境界線を易々と飛び越すのではなく、主人公の揺れ動く思いをていねいに描写することによって現実世界と幻想世界の隔たりを読み手に実感させるようになっている。ファンタジーで描かれる世界は現実の人間がそう簡単に入りこめるようなものではないのだという作者の主張がこめられているように感じられる。
また、本書は主人公の自分探しの物語でもあるのだが、ここで作者はゲームのように経験値によって主人公が成長し居場所を見つけるという仕掛けをあえて避けているように思われた。あるがままの自分を冷静に受け入れることにより自分が何者なのかを自覚するしかないというメッセージが含まれているように思う。むろん、それはたやすいことではない。その難しさを作者は1冊ぶんかけて描き切っている。
主観と客観の交差するその瞬間、幻想世界が現実世界とシンクロする。その微妙なラインをきっちりと描いた意欲的なシリーズが開始された。次巻以降、作者は主人公にどのような自分を発見させるのか。期待したい。
(2001年3月15日読了)