時は30世紀。人類は物理法則の限界を超えられず〈遷光機関〉という技術によって恒星間飛行を可能にしていた。しかし、その原理は解明されておらず、〈魔術師〉と呼ばれる形而上学航宙士のみがそれを操ることができた。ただし、〈魔術師〉の数はたったの4人。そのうちの1人、スウェーデンボルグが乗る宇宙船「揺籃」は、アルデバランの植民コロニーを目指していた。そこでは通常の物理法則を超越したCI現象をひき起こす生物により、住民たちが全滅の危機にさらされているのだ。コロニーに突入した兵士たちが発見したのは、冬眠状態の少女、ウーシアだった。異星人ヤディス人は彼女の身柄を要求する。彼女はCI現象の根幹を解明する鍵らしいのだ。CI現象の秘密とは何か。スウェーデンボルグたち〈魔術師〉の目的とは。
宇宙SFとクトゥルー神話との融合を図るという野心的な試み。それが成功しているかどうかは、私には少々ひっかかる部分もあって必ずしも納得できたわけではないのだが、それは私がクトゥルー読みではないからかもしない。クトゥルーの好きな読み手だとまた受ける印象が異なるかもしれない。
とはいえ、人間の根源的な恐怖を引き出し死に至らしめるというCI現象のアイデアをはじめとして、ユニークなアイデアを次々と投入し、SFやホラーのガジェットを詰め込めるだけ詰め込んだところに本書の面白さがあるのだろう。そこらあたりはヴァン・ヴォークトを想起させる。それがやや未消化に感じられる点やストーリーがギクシャクしながら進行する点も含めて。
そういう意味では作者が今後もこういった路線で書き進めてくれると、日本SFに新たなバリエーションが加わることになると思う。この野心的な試みはまだ始まったばかりなのである。
(2001年3月17日読了)