大崎倬巳はエレベーター事故で母親を失った。母親とともにエレベーターに乗っていた弟、慎平は意識を失ったまま入院を続ける。5年後、高校生となった倬巳の前に、月井という教育実習生が現れる。彼はなぜか倬巳につきまとう。倬巳の同級生でエレベーター事故の生存者である桐敷千秋は、いつも魂が抜けたような存在感のない少女だが、月井は倬巳と千秋を常に見張っているのだ。エレベーター事故をいっしょに目撃していた従兄弟の裕樹が謎の死を遂げ、慎平が5年ぶりに目覚める。一連の事件に月井の影が。目覚めてすぐ行方不明になった慎平を探す倬巳の前に姿を現したのは、銀色の髪をした謎の少年、アキラ。彼が慎平をかくまっているという。倬巳を、そして千秋を狙う月井の目的は何か。そして、アキラの正体は……。
思春期の不安定な少年たちの心理をあざやかに描き出した作品。謎の超能力者集団の設定などはいささか類型的ではあるが、それは物語の味つけをする程度のものであり、主人公たちの心を惑わせるための道具立てに過ぎない。謎を次々と提示し、状況に翻弄されながら自分のとるべき行動を探り当てていく主人公の動きを追う、そのストーリーの運びがよく、読んでいる間は特にひっかからなかった。
人の「死」が本書を読むキーワードかもしれない。一人の人間にとって親しいものが死ぬということの意味がどういうことなのかを登場人物の行動を通じて描く。そういう意味では、本書は若い読者の琴線に触れる物語であり、私のような中年男には幾分まぶしく感じられるピュアな話である。作者はこの感覚を大切にしていってほしい、そのように思う。
(2001年3月18日読了)