高校生、岩渕達希は高校に入学してから知り合った宇津木征治とその幼馴染みの谷萩奈央子と親しくなる。やがて達希は奈央子に特別な感情を抱くようになり、二人きりでの行動も増えてくる。そして、初めての口づけ……。達希のことを愛し始めていた奈央子であったが、突然の行動に戸惑い、ついその場から逃げてしまい、そして道に飛び出したところに自動車が……。ところが、一度事故死したはずの奈央子は蘇生する。同じ時期、同じ高校に通う生徒で死亡したはずなのに蘇生した生徒が他にも現れ「景南高校の生徒は死なない」という噂が学校に流れる。一方、征治は背の高いことをコンプレックスに感じる同級生、佐竹志真子を誘って海に。志真子は征治に恋をするが、征治はその気持ちに気がつかない。志真子は征治に当てつけるように自殺しようとするが……。死亡した高校生が蘇生する秘密は何か。そして、蘇生した者たちは……。
思春期の若者たちの心情をあざやかにとらえた小説。ここに登場する若者たちの青春は決して明るく希望に満ちたものではない。コンプレックスを抱き、自分の考えと行動が一致せず、悩み苦しむ。青年期というものは確かにそのようなものなのだ。特に、閉息感に満ちた現代では、特に。その複雑な感情をていねいに描写している。
ストーリーの運びもうまく、一気に読ませる力を持った作品だ。蘇生の秘密はあいまいなまま残しているけれど、作者の描きたかったものはおそらくその秘密などではなかっただろう。それよりも、死者が蘇生するという状況で若者たちがどのように揺れ動くのかが本書の最大のテーマであるように思う。
そういう意味で、青春小説の秀作としていろいろなことを考えさせてくれる、好感の持てる作品である。
(2001年3月18日読了)