伊勢にある老人介護施設で働く近藤幸夫は施設長であり後輩でもある白壁みゆきにほのかな恋心を抱いていた。また、みゆきの従姉妹である崇道真琴にも微妙な思いを抱いている。真琴の母春世が子宮癌の摘出手術中に麻酔からさめ暴れだし失血状態になって植物人間状態になった。彼女が麻酔からさめた時に口にした言葉は「イザナミさま……」。手術を担当した麻酔医の突然死、そして近藤の自動車の突然発火など、謎の事件が続く。事件の謎を解くために、近藤と真琴は調査を始める。そこには女鬼神社の宮司である白壁一族にまつわる因縁があった。春世は若い頃、巫女として強い霊力を持っていたというのだ。脳梗塞で半身不随となり介護施設に入っている一族の一人、皆川雪乃が急速な回復を見せ始め、それにともない怪事件が頻発する。「イザナミさま」の正体は、そして怪事件の真相は……。
「古事記」のイザナギ・イザナミ神話をベースに雷神説話を折り込み、科学的解釈もまじえながら二人の女性と青年の苦しい想いを描いた伝奇アクション。その謎の提示の仕方、息つく間のないスピーディーな展開、ラスト近辺の手に汗握るアクションと、エンターテインメントの必要条件を十分に満たした作品。作者は読み手を楽しませるツボを心得ている。
一つだけひっかかったのはせっかく雷神説話にうまく科学的解釈をあたえているのにもかかわらず、イザナミの正体についてはその姿勢を徹底しきれていないところ。伝奇アクションとしてはそれでいいのだろうけれど、やはりここは疑似科学でよいからそれなりの解釈をあたえてほしかったところだ。解決し切れないところをアクションで補う手法はヤングアダルト小説の定石とはいえるけれども。
とはいえ、本書が一気に読者を作品世界に引きずりこむだけの力があることには違いない。作者ならではの迫力ある筆致が楽しめる作品である。
(2001年3月22日読了)