読書感想文


沈丁花の少女
崑崙秘話
紗々亜璃須著
講談社X文庫ホワイトハート
2000年12月5日第1刷
定価590円

 仙女になる修業中の道姑、瑞香は師匠の目を盗んで人間界を見学に行く。そこで出会ったのは、国王の皇后となって私利私欲のために暴虐の限りを尽くす狐の妖怪、狐精であった。なぜか狐精の姿を見ただけで意識を失ってしまった瑞香。実は、狐精は過去に仙界の宝珠の力で西王母の長女、華林公主と戦い、公主を呪って意識不明にさせた恐るべき力の妖怪であった。仙界にまで影響をおよぼすこの狐精を退治するため、仙人たちが選び出したのは、清源妙道真君こと楊ゼンと、なぜか見習である瑞香。彼女が選ばれた理由はなぜか。狐精との戦いの火ぶたが切られる。
 未成熟で元気のよい少女が様々な体験を経て成長していくという、いわばヤングアダルト小説の定番ともいえる物語の開幕。全3巻の予定だそうだ。多彩な登場人物とあちこちに入れた伏線や過去の因縁など、作者なりの工夫は見られ、楽しく読めるものに仕上がっている。
 とはいいながらも、物語そのものに新味はあまりなく、一定水準まで達しながらもそこをぶち破るだけの力が足りないように感じられた。これまで作者が発表してきたものを大きくまとめあげていく作品という位置付けがなされているだけに、手堅くまとめているのかもしれない。安心して読める点は買うけれども、もう少し冒険してほしかったなあという思いもある。次巻でどのように主人公が戦っていくかが物語を大きく奥深くできるかどうかのポイントとなっていくのではないだろうか。

※晉戈という漢字を書くが、外字なのでカタカナにしています。

(2001年4月11日読了)


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