「美人論」等で知られる建築史学の俊英が、なんと今回は「阪神タイガース」を論じた。タイガースの結成当時は、ライバルは巨人軍ではなく阪急であったこと、セ・パ両リーグ分裂の際にタイガースが果たした役割、「六甲颪」の通称で知られる球団歌「阪神タイガースの歌」がファンの間に広まった時期の特定、熱狂的タイガースファンを生んだラジオ番組やテレビ放送の効果……。歴史的な面、現象的な面など多角的な視点からタイガースを論じ、タイガースが関西文化の象徴になっていった原因と過程を探る。
これは画期的なタイガース論である。ただ単に選手の魅力を語ったり、タイガースの歴史をコンパクトにまとめたというような、これまで多く出ているタイガース関係の本とは比べ物にならない、エキサイティングな論考である。著者の用いている史料は、これまでのタイガース本ではほとんどとり上げられることのなかったものであり、社史や新聞記事から浮き彫りにされる「タイガースの正体」は、現在の我々の視点からは想像もつかないものなのである。
本書を読むまでは、どんなタイガース本を読んでも「この程度のものなら私にも書ける」と思っていたが、読んでしまった現在、これを越えるものはそう簡単には書けないと感じた。論点が違うのである。本書は一方的なタイガース賛歌ではなく、かといってためにするようなからかいや嘲りでもない。「タイガース」という「現象」を冷静な視点でとらえ直しているものなのだ。そして、タイガースを論じることにより、マス・メディアを論じるという側面もある。
とにかく画期的な本であることは間違いない。タイガースファンにも、他のチームのファンにも、そして野球に関心はないが関西文化の本質を探ってみたい人にもお薦めの1冊である。
(2001年4月7日読了)