読書感想文


深き水の眠り
毛利志生子著
集英社コバルト文庫
2000年12月10日第1刷
定価552円

 平凡な高校生、名和沙月は、彼女の前に突然現れた赤毛の男、吼に「水蛇の巫女」と呼ばれ、彼の名を呼ぶように求められる。彼女の通う高校の1年先輩である成瀬玻瑠佳には、静河と若竹丸という二人の水蛇がついていて、その姿を見抜いた沙月に対し、玻瑠佳はこの世界に潜む〈水蛇〉の存在とそれを制御する〈巫女〉の役割について教える。沙月も玻瑠佳も水蛇の巫女として生まれついた者だったのだ。巫女に制御されていない水蛇は時として人間に害をなす。玻瑠佳はそのような〈はぐれ〉の水蛇を狩る血筋の家に生まれていたのだという。おりしも、彼女たちの高校の生徒が次々と変死する事件が発生。〈はぐれ〉の水蛇、吼の仕業ではないかと疑う玻瑠佳。やがてその水蛇は沙月の友人に、そして沙月自身にも狙いを定めてくる。吼は危険な〈はぐれ〉なのか。そして、沙月は狙われた友人を助けることができるのか。
 新シリーズの開幕。『カナリア・ファイル』シリーズに登場した〈水蛇〉を独立させ、ストーリーの中心に置くという、いわば作者の創造した世界の拡大ともいえるシリーズだろう。
 もっとも、ストーリーは『カナリア・ファイル』のような大河シリーズと違い比較的単純で、主人公の顔見せという位置付けになるのではなかろうかと思う。平凡な少女という設定は実はその平凡さを構築する難しさがあるのではないかと思う。ひとつ間違うとそれは個性のない平板なキャラクターになってしまうからだ。本書を読んだ限りでは沙月という少女の個性がまだまだ見えてこない。巻を重ね、どのような肉付けをしていくかで評価も変わっていくものと思われる。この1冊だけでは、残念ながら作者の持ち味である善悪入り交じった人間模様を描き切れているとはいえない。主人公の友人たちの心理描写などがすぐれているので、次巻以降の展開でそれが最大限生かされるのを待ちたい。

(2001年4月14日読了)


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