ブームが続く安倍晴明。本書はその安倍晴明の実像を明らかにした上で、「晴明伝説」がどのようにして生まれ、いかにして流布していったかをまとめたものである。
本書では晴明の官僚的な生き方が明らかになるとともに、その子孫である土御門家による晴明の神秘化、民間の陰陽師たちが自分たちと晴明を結びつけるために行った伝説と説話の融合などの経緯をわかりやすく説き起こす。
そこには、時代の流れによって変わっていった陰陽師の地位についての深い考察がなされている。特に賤民階級であった民間の陰陽師たちにとって、よりどころとなった晴明伝説のありかたに独自の視点があり、興味深い。
ヤングアダルトでは安倍晴明の登場する小説が後を断たないが、本書を読むことによって作家の晴明へのスタンスがどのようなものなのかがより鮮明にわかるようになってくる。
安倍晴明ファンならずとも、伝奇小説が好きな人たちにお薦めの、簡潔にまとまった好著である。
(2001年4月17日読了)