新人のデビュー作。
ある事故から2年間眠ったまま目がさめない少女、古賀さとみ。サイコダイバーの凛は、同業者の紅美が彼女の夢の中に潜ったまま戻ってこないため、追いかけるように潜入する。さとみは自分の夢の中で堅牢に世界を構築していた。その世界では地上人が徹底した管理下におかれ、地下の世界では洞人と呼ばれる者たちが身をひそめて暮らしていた。その世界に住む少女、ナナは叔母の死と洞人シンに出会ったことから管理社会に疑問を持つようになる。街を司る神官はそんなナナを「鬼」として狩ることに決め、洞人でシンの双子であるサギリを新しい神として拉致する。ナナはシンとともにサギリを救うことを決意する。ナナの行動とことみの眠りの関係とは。紅美と凛はことみの眠りを覚まさせることができるのか。
夢枕獏によって創造された〈サイコダイバー〉を作者なりに消化した〈夢界異邦人〉が活躍する。眠り続ける少女の深層心理を、彼女の夢の中に作られた世界として構築し、その世界の要素ひとつひとつに意味を付与している。これは元祖サイコダイバーの潜る深層心理の世界を意識しつつ作り上げたものだろう。夢の世界としてはあまりにも完璧に構築されているところが出来過ぎであるようにも思うが、自分の世界の中に入り込んで出てこられない少女という設定を考えれば、それなりに説得力はある。
人の心理というものはもっと無秩序で不可解なものではないかと思うが、少女の病理を世界構築という形で表現した力量は、新人としてはなかなかのもの。ロマンティックな物語で甘味が強すぎるきらいがあるが、ここに少々の苦みのスパイスが加わればもっと面白くなってくるだろう。そのあたりの要素を加えた上で、このまま伸びていってほしい素材である。
(2001年4月23日読了)