読書感想文


天象儀の星
秋山完著
朝日ソノラマ文庫
2001年3月31日第1刷
定価533円

 作者が本格的なデビューを飾る前に発表された短編を中心にした短編集。
 未知の星座を空襲で爆撃する瞬間に見たパイロットの記憶を受け継いだ青年がその星座を投影したプラネタリウムを見つけだす、幻想と現実の間に生じたロマンティックな小品「天象儀の星」。CGホログラムに満ちあふれた街で虚飾の光から真実の光を見つけだす青年を描いた「まじりけのない星」。失われた名画を修復する名人が画商に依頼されておもむいた星で見つけた思いがけない名画の正体が意表をつく「ミューズの額縁」。知識情報を練りこんだ精霊菓子を悪用する男に挑む下っ端菓子職人の密やかな戦いを描く「王女さまの砂糖菓子」。そして書き下ろしである「光響祭」は亜空間を貫く力を持つ太古の光子が集まって現れる光蛇を封じつる祭で、その光子の秘密を手に入れようとする闖入者とそれに立ち向かう村の少女の戦いを描いた愛の物語である。
 いずれも長大な宇宙史の一環をなすということになっている作品なのだが、作品によっては少しこじつけめいているものがなくはない。むろん作者の頭の中にはそのような構想もあるのだろうが、無理に宇宙史としなくとも、と感じた。
 それはともかく、各短編を見てみれば、作者の持つリリカルな面が強く出ているといえるだろう。特に表題作や「まじりけのない光」などにそれが強く出ていると思う。ロマンティスト秋山完の面目躍如といっていいだろう。「光響祭」はSFのアイデアをファンタスティックに展開したもので、現在の作者の進境を如実に表したものだといえるだろう。初期作品との構成の緻密さの違いを読み比べてみるのも興味深いだろう。
 ハートウォーミングな好短編集である。

(2001年4月23日読了)


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