読書感想文


チョウたちの時間
山田正紀著
徳間デュアル文庫
2001年4月30日第1刷
定価619円

 作者初期の傑作長篇の復刊。
 生まれ故郷の地酒を大手メーカーに紹介するよう依頼され、それを拒もうとしても催眠術にかかったようになり故郷に帰ってきてしまったサラリーマンが、そこで知った自分の出生の秘密。彼の両親たちの時間と空間の境界に現れる謎の敵との戦い。第二次世界大戦時に失踪した天才物理学者の行方。そして、時間と空間の狭間を超えて姿を見せるチョウ……。
 「時間粒」「純粋時間」などのオリジナルな概念をアイデアの核にすえ、壮大なスケールで「時間」というものの真実を探ろうとする。ストーリー展開は荒削りではあるし、破綻しかかっている部分もないではない。しかし、それ以上に読者を圧倒するのは人と時間との関係をなんとか言葉にし、想像できるものに組み立てようとする作者の野心的な試みである。本書が長年絶版になっていたのが不思議なくらいであり、こうやって復刊されたことで若い読者が新たな発見をしてくれるかと思うと、嬉しいことだ。私は20年ほど前に読んだ切りで、久々の再読であったが、決して古びることのないテーマに新たな興奮を覚えた。
 未読の方はぜひ御一読を。

(2001年4月21日読了)


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