高校生の雨神丈斗は、同級生たちが妖怪に頭から食べられる悪夢を見る。しかし、彼の記憶には食べられた同級生に関する記憶がないのだ。そんな時、クールな九堂よしえとウサギの耳をつけた桜宮サヤの二人に「紅椿学園妖魔術クラブ」への加入を求められる。彼女たちによると、学園は妖怪の巣窟になっていて、特に人間に害を与えるものを妖魔と呼ぶという。丈斗は妖魔を倒す力があるというのだ。丈斗につきまとうのは遊天童子と名乗る美貌の妖怪。童子は丈斗が死んだ時に出る珠を狙っている。丈斗はかつての恋人夏芽が妖魔に食われようとしているのではないかと疑いを持ち、妖魔退治に協力することにする。そこで彼を待ちかまえていた妖魔の姿は……。
妖怪の登場する学園小説という作者の新境地。人ならぬものと人の共生、葛藤という作者ならではのテーマを扱っているが、設定がいささか強引で読んでいて物語に没入しにくいという感じがした。妖怪の定義やそれに対する人間の位置付けなど面白い題材であるし、そういった部分には作者ならではの工夫もなされている。なのにどうして没入できないのか。
物語のカギとなる主人公集団のキャラクター設計のコミカルな部分とストーリー展開のシリアスな部分がうまく噛み合っていないところにその理由があるのではないかと思う。そのためにコミカルなキャラクターが強引にシリアスなストーリーを進めるという形になってしまっているのではないだろうか。少年と少女の純愛などセンシティヴな作者のよさもそのためにストーリーの上で浮き上がってしまっているように感じるのだ。
よしえとサヤというキャラクターは作者の本領ではないだろう。若い読者を惹きつけるための小道具がかえって足を引っ張っているとしたら、それはちょっと皮肉なことである。
(2001年4月25日読了)