浅倉泉と保科昶の二人きりの化学部は、文化祭の出し物で展示する物質を合成していた。落雷とともに生成された物質は、ダイヤモンドよりも硬い球体で中身は真空。この物質に〈ふわふわ〉という名をつけた泉は大量生産に成功、自ら社長となり〈ふわふわ〉を中心とした事業を拡大する。泉は夢である宇宙空間の軌道カタパルト建設に着手する。ところがそこに異星からの来訪者が現れて……。
タイトルはA・C・クラーク『楽園の泉』(ハヤカワ文庫SF)のもじり。主人公の名前も含め、クラークへのオマージュとして書かれた作品。ハードSFのヤングアダルト的展開という試みである。果たしてこれが成功しているかどうか。これがちょっと難しいところ。というのも、ストーリー自体に起伏に欠けるところがあると思うからだ。スタイルとしてはどちらかというと短編の連作に近いものがある。例えば異星からの来訪者などは何の伏線もなく唐突に現れる。この展開は長編小説として読むと強引な印象を与える。これは短編の積み重ねという構成にした場合だと無理なく読めるだろう。
アイデアのコアはかなりしっかりしたハードSFである。それを若い読者に楽しく読んでもらおうという作者の試みは高く評価したい。宇宙空間に出た時の感動なども作者ならではのタッチでよく伝わってくる。ただ、もう一押しが足りないという感じがしたのだ。そういう意味では、本書はヤングアダルトハードSFという実験作で、今後この路線をどのように展開するかに注目していきたい。
(2001年5月3日読了)