読書感想文


穢土−エド−
樹川さとみ著
エニックス EXノベルズ
2001年5月11日第1刷
定価860円

 挫折した天才画家、天野誠二はルポライター細田康の取材を受ける。細田は天野の死んだ恋人、美弥子の遺した壺を探していた。細田によると、死んだ美弥子は他人の戸籍を買い取っていたのだという。壺を探す天野と細田は動く死者〈銀眼〉たちに襲われる。〈銀眼〉を操るのは北真会という宗教団体。そして、そこには巫女として美弥子そっくりの女性がいたのである。天野と細田を立て続けに襲う怪異。美弥子の正体は、壺に隠された漆黒の髑髏の秘密とは、そして天野たちを待ち受ける運命は……。
 魅力的なキャラクター造形、緊迫したストーリー展開、そして謎の引っ張り方など、読みでのある長篇である。その重苦しさが強い魅力として光ってくる。
 ただ、難をいえばアイデアの核である髑髏と巫女に関する秘密がいささか説得力を欠くこと、そしてハードボイルドを意識した文体がかえってスムーズなストーリーの流れをせき止め読み辛くなっていることが気にかかった。
 とはいえ、例えば細田をめぐる不思議な人物群像の描写の面白さなど、作者がかなり力を入れて書いたことが読み取れる力作であることには間違いない。ここにさらに重み、深みが加わっていくということになれば、今後もこの作者にはさらにすぐれた伝奇ホラーを期待できるのではないだろうか。

(2001年5月5日読了)


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