父親に勘当され故郷を捨てて東京でフリーライターをしている東郷克己は、突然〈戦神〉の一族、〈木気〉の長に指名される。彼にはその力がないと烙印を押されていたにもかかわらず、正確な予知夢を見たことからその潜在的な力の大きさを認められたのだ。しかし、克己は鍛練を怠っていたためにその力を自在に操ることはできない。彼の役割は自然の調和を司る〈癒し神〉である鷹司琳を〈水気〉〈土気〉〈金気〉の長とともに守ること。大陸から迫り来る黒い陰気が日本に悪影響をおよぼす中、その陰気の原因である大陸の悪鬼は〈癒し神〉の琳に攻撃の手をのばしてきた。まだ完全に制御できない力を使い、悪鬼と戦わなければならない克己に勝機はあるのか。
陰陽五行説をキャラクター化し日本の守り神として受け継がれていたものとするアイデアは面白い。しかし、登場人物の性格づけ、特に主人公のキャラクターにはちょっと首をひねらざるをえなかった。失格の烙印を押され勘当さえされた若者が、やっぱりお前の力が必要なのだと言われて、多少は抵抗するけれども、こうあっさりと修業に励む気になるだろうか。〈癒し神〉の琳を慕い彼女のために働きたいという気持ちがあるとはいえ、物語の途中で別人格になったかのように性格が変わってしまうのはどうにもひっかかるところだ。もっとも、作者が男の単純さを笑う意図でもあってそうしたというなら話は別だけれど。
ストーリー展開にもいくつか疑問を感じる点があった。私はこの作者のデビュー作『月王』(富士見ファンタジア文庫)を読んで好感を抱いた記憶があるのだが、その時の心のあたたまるタッチがどこかに消えてしまっている。私としては、実はそれが一番残念であるのだ。あのセンシティヴな感覚を取り戻してほしいというのは私のわがままなのかもしれないが。
(2001年5月9日読了)