洋画、アニメの吹き替え初期から活躍してきた著者が、自分が吹き替えの仕事をしはじめた頃のエピソード、持ち役である名女優たちへの思い入れ、思い出に残るアニメ作品、家庭人としての悩みや苦しみ、現在取り組んでいる「朗読」という新たな仕事への希望などを書き綴ったもの。
自伝としての性格と、テレビ草創期の貴重な証言という性格を合わせ持った1冊。特に吹き替えというシステムがどのように確立されていったかということに関してはなかなか知られていない部分でもあるので、こういった形で証言が残されるというのは芸能史の一部を補完するという意味でも重要なものなのではないだろうか。
ベテラン声優の年輪を感じさせる様々なエピソードは、著者が声優という職業に対して持っている誇りを示したものといえるだろう。
ただ、できれば声優の演技論的なものと自伝および吹き替えの歴史を記述したものとは2冊に分けるというようなものにしてほしかったとも思う。そのために1冊の本としては若干散漫な印象を与えてしまう。他の声優による吹き替えの歴史をまとめた本はもっともっと企画されてもよいのではないかと感じた。
(2001年5月10日読了)