第2回日本SF新人賞受賞作。
ペローはサイボーグ動物に人間の意識を移して自由に行動できるというシステムを利用し、猫となって町の要人のスキャンダルをつかみ、強請って金を手に入れるという生活を送っていた。しかし、町を牛耳る暗黒街の親玉、パパ・フラノにその尻尾をつかまれ、フラノの配下であるシムノンのもとでその組織の一員となることを強要される。なんとか自由の身となりたいペローだが、テロリスト集団『ベルゼブル』との抗争に巻き込まれ、絶体絶命のピンチに……。
ハードボイルド気取りの主人公がいざという時腰砕けになるのがたまらなくいい。変に自信を持っているのに、それが突き崩されるとへなへなになる。そこからピンチが広がり、そこをなんとか切り抜けていく、そのストーリーのつながり具合が読者を飽きさせず引きつける。文章のセンスもむやみに作っているわけでもないのになかなかしゃれていて、光るものを持っている。
こういったセンスは年齢は関係ないだろうが、いい意味で若さゆえの怖いもの知らずのよさがでているといっていいだろう。主人公を若者にしているので、彼の視点から見た大人が典型的なものになっていても不自然ではない。あとは作者がこれからどのような実体験を積むかによって、作品世界に奥行きが出てくることを期待できるだろう。本書は一つの町という小さな世界を舞台にしているわけだが、これがひとまわり大きなスケールの世界を描いた時にどう変わっていくかなども今後注目していきたいところだ。
まさにダイヤモンドの原石。どう磨かれるかが楽しみな新人だ。
(2001年5月20日読了)