希崎心弥は人の抱いている感情を「色」という形で感知できる能力を持っている。彼の幼なじみの露草弓は、亡き父の故郷である徒帰島に、祖父の誘いを受けて遊びに行くことにするが、その旅に心弥を誘った。徒帰島に渡った弓と心弥は島民から思いも寄らぬ歓待を受けるが、島民たちの感情の色に心弥は疑念を感じる。島の秘密を探りに現れた夢路と名乗る不思議な男、島の神〈波谷様〉を狙う宇津星、敬神、籤方という奇妙な一行など、様々な人物が活動を開始する。そんな中で心弥は監禁され、弓は自分の意志とは関係なく〈波谷様〉の巫女にされようとしていた。やがて近づく〈波谷様〉の祭。宇津星たちが狙う〈迷宮神群〉と〈波谷様〉の関連とは何か。心弥は弓を救い出すことができるのか。
伝奇アクションの装いであるが、実はれっきとしたファンタジー。出てくる神話もその神話の解釈も全て作者の創作である。ここいらあたりひとつ間違うと陳腐でご都合主義的なものが生まれてしまいがちなのであるが、作者の設定はそうなる一歩手前で踏みとどまっているように感じた。描き方がうまいのである。設定そのものに新味があるわけではないのだが、離島の秘祭などの場面設定でそれらしい雰囲気を作り上げているのだ。
〈迷宮神群〉にしても、それを狙う組織にしても、アイデアそのものは刮目するようなものではないのだが、登場人物の描き方でそれなりに説得力を持たせることができているのだ。その筆力はデビュー作で示した通り。
ということは、設定がもっとよければかなりの傑作になったといえるわけで、もっともっとアイデアを練り上げてふくらませたものであったら、と思わずにはいられない。その意味ではもったいない作品ではある。次回作では実際の神話ではないかと思わせるような舞台を作り出してほしいものである。
(2001年5月26日読了)