平安時代、学問の道で位人身を極め、しかし藤原氏の策謀により太宰府へと左遷され、失意のうちにその生涯をとじた菅原道真の定評ある評伝。今から40年近く前に書かれたものだけに、歴史観など新たになっているわけで、そういう意味では最新の道真研究から見ると不備もあるかもしれない。
しかし、いわゆる天神伝説にとらわれることなく史料に基づいて客観的にその事蹟を記述している姿勢には好感が持てる。この時期に書かれたものにしては恣意的な視点を入れないようにしているため、道真の生涯を正確に押さえるには最適の書物ではないだろうか。
天神伝説については簡単に触れられているだけなので、その方面について知りたい人には満足できないかもしれない。しかし、こういった史実を正確に記述したものを頭においてこそ、伝奇的な解釈を楽しむことができるのである。
(2001年5月27日読了)