読書感想文


大鏡 全現代語訳
保坂弘司訳註
講談社学術文庫
1981年1月10日第1刷
2000年9月20日第25刷
定価1300円

 平安時代、栄華を極めた藤原氏。その頂点に立ったのは〈御堂関白〉と呼ばれた藤原道長である。本書は、道長全盛時に190歳の大宅世継、180歳の夏山繁樹という2人の老人が若い侍を相手に昔話という形で藤原氏が朝廷の実権を握っていく様子を語った古典文学である。本書はその全文を現代語に直したもので、さらに登場する人物や平安時代の衣服や建築、制度に関する用語に詳細な註解が付されている。
 ある時代を知るには一時資料にあたらなければその時代の空気を吸うように理解することはできない。しかし、古文をそのまま読むには詳細な知識が必要だ。そんな時、本書のような現代語訳があるのは実にありがたい。
 本書は歴史書であるが、平安貴族たちの細かなエピソードなどを折り込み、当時の人々の常識や倫理観、生活習慣などが読み取れるようになっている。物語というわけではないので読みやすくはないが、平安時代をわかりやすく説いていて時代を知るには格好のものとなっている。また、詳細な註解もうまく活用すればちょっとした平安小事典として活用できるだろう。
 国文学研究者による読みごたえのある労作である。

(2001年6月9日読了)


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