読書感想文


ΑΩ[アルファ・オメガ]
小林泰三著
角川書店
2001年5月30日第1刷
定価1500円

 別居中の妻に会うために北海道への飛行機に乗っていた諸星隼人は謎の事故で命を落とす。その身元確認にやってきた妻、沙織は、夫が蘇生するのを目のあたりにする。駆け出しの童話作家である諸星は恐竜の骨が出てきたという村へ取材旅行に行くが、そこに出現したのは本物の恐竜だった。諸星は〈超人〉に変身し、恐竜と戦い始める。諸星を蘇生させたのはガという名の宇宙生命体で、〈影〉と呼ばれる別の生命体を追って地球にやってきて、その結果飛行機を巻き込んで事故を起こしたのであった。ガは〈影〉の力を無効にするために地球に残り、そためには諸星という体が必要だったのだ。人間の記憶情報をコピーして人間もどきを作り出し町を混乱に陥れる〈影〉。『アルファオメガ』という宗教集団の長ジーザス西川にとり憑いた〈影〉はその信者を怪物に変えて破壊活動を行う。諸星とガの孤独な戦いが始まる……。
 作者のウルトラヒーローへのオマージュであることは主人公のネーミングからいっても一目瞭然である。それだけではなく、『空想科学読本』(柳田理科雄)あたりのヒーロードラマを科学的に解明しようとしてかえってあら探しのようになっている本への、ハードSFからの挑戦であるようにも思える。SFとは科学的裏付けのある大胆な空想なのだということを再確認させてくれる。
 ヒーローと主人公の出会いや人間もどきなどの小道具は『ウルトラマン』や『マグマ大使』のものを踏襲しているわけだが、作者はそこにキリスト教、クトゥルー神などの味つけをしながら主人公と敵との戦いの面白さを際立たせている。ここで示されているものはヒーローは敵と戦うからヒーローなのだという特撮ドラマで育った我々の世代の想いであり、またハードSF作家からのヒーロードラマへの挑戦状ではないかと感じるのである。その細部に込められた遊び心全てがそれを物語っているのだ。

(2001年6月16日読了)


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