作者初の近未来SF。人工の合成食肉が開発され、清潔さへの観念が進み、子どもたちの「教育」が学校の廃止とともにそれぞれの資質に合わせて個別のプログラムが組まれ、人々がみな端末を携行し、管理化の進んだ社会が舞台。14才の児童が続けて襲われる殺人事件が発生する。この事件に対処する捜査本部の方針に疑念を抱いた刑事は謹慎を命じられ、児童たちの担当である心理カウンセラーは意に反して子どもたちの情報を提供させられる。新たに行方不明になった少女をかくまう歩未、葉月、美緒、麗猫たち14才の少女たちは事件に関わるにつれその裏に隠された巨大な力を実感するようになっていく。そして、真の犯人の次のターゲットは彼女たちに……。
前半は舞台設定や主要な4人の少女たちのキャラクター設定を紹介していくという意味あいもあり緩やかに物語が進む。正直なところ退屈ささえ感じる。しかし、後半に入ると一転して少女たちの勝ち目のないと思われる壮絶な戦いや権力を疑い抹殺されそうになる刑事とカウンセラーの危機などが緊迫感あふれるタッチで展開され、読み手を惹きつけていく。だから前半で挫折することなくとにかく全部読んでいただくことをお薦めする。
近未来社会の設定や権力者の小児的な感性については特に新鮮味は感じさせないのだが、4人の少女の描き分けが優れていて、管理下における真の自由というものを追求する様子がストーリー展開とともに提示されていく。社会のくびきから解放されようとする者として「少女」を選んだところに作者の主張が込められているように感じた。
ところで、本書の設定は一般読者から応募されたものを公募したものを構成したとのことだが、この設定自体が物語の根幹に関わるだけに、どこまでが読者の考えたものでどこからが作者の考えたものかを巻末に付しておいてほしかった。編集部は巻末にアイデア応募者の名前を並べた上で「従来、小説は、作者から読者に一方的に物語を提供する片方向のものでしたが、本作品は双方向の試みを取り入れて誕生したのです」と書いているが、それならばどれだけ作品にフィードバックされたかをはっきりさせるのが当然だろう。実際、筒井康隆『朝のガスパール』ではそれがなされている。出版社と作者は今後『メイキング・オブ・ルー=ガルー』を出版すべきではないかと思う。そうでなければ、厳しい言い方になるが、作者が舞台設定という小説でも最も大切な部分を自分で考えることを放棄したととられても仕方あるまい。アフターケアを早急に行うことを望むのである。
(2001年6月23日読了)