第8回ホワイトハート大賞優秀賞受賞作。デビュー作となる。
英国パブリックスクールの寮を舞台にした伝奇ホラー。寮生たちが夜間に百物語を行い、フランス人のシモンが行った湖の魔女に関する伝説が、実際に怪異を呼んだ。開かずの霊廟で密会していたヒューとマイケルのうち、マイケルは行方不明になりヒューは錯乱したまま変死する。霊感の強い日系人ユウリは、霊廟で伝説に登場する男の幽霊に出会う。オカルトに詳しい変人のコリンは奇怪な儀式でユウリの霊力を高めようとする。ユウリ、シモン、コリンの3人は霊廟に置かれていた鏡に注目し、伝説の貴婦人を呼び出そうとするが……。
英国パブリックスクールの男子寮という閉ざされた空間で起こる怪異譚。その舞台や伝説の作り方など、いかにも何か起こらずにはおられないという設定で正統派の怪談を展開している。作者はかなり文献を読み込みその豊富な知識を作品に生かしているが、登場人物の言葉を借りてその蘊蓄を披露していて、それがややペダンティックな印象を与えなくもない。知っていることを全て披瀝する必要はないのだ。そこらあたりに作者の若さを感じさせる(実年齢ではなく、作家としての若さ、ね)。さらにただ単に霊力が強いだけの少年がクライマックスで自在に呪文を操ったりする不自然さがところどころ見られたりする。
そういう意味ではこの作者は小説の書き方を覚えてくると大化けする可能性は秘めているけれど、現時点では原石でしかないといえるだろう。むろん、オーソドックスな怪異譚に真っ向から挑戦しきっちりと仕上げているのだから、今後に期待できる新人ではある。あとがきではどうも同じ主人公を使ったシリーズにする予定らしいけれど、シリーズという枠にとらわれずに正統派の怪談作家に成長していってほしいものである。
(2001年7月7日読了)