読書感想文


落語的ガチンコ人生講義
立川談四楼著
新潮OH!文庫
2001年7月10日第1刷
定価562円

 本書は「落語もできる小説家」こと立川談志一門の異色落語家が専修大学で非常勤講師として1年間行った講義録をもとに、当時の心境なども織りまぜながら再構成した興味深い読み物である。
 講義の内容は、若者に落語の面白さや奥深さを伝えるというもので、それはそれで著者独特のものがあり「本著は私の『現代落語論』であり『現代落語家論』なのだ」と著者自身が書いている通り、立川流の落語家らしい芸に対する姿勢が随所に現れている。
 しかし、私が興味深く読んだのはその部分よりも著者と学生たちの関係の変化である。著者の話す内容が理解できず私語と携帯電話の着信音が絶えない教室、古今亭志ん生の落語のテープが学生たちに受けず愕然とする著者、ついにはレポートを課し徹底的に講義の内容を浸透させようとする著者、レポートのために初めて落語会に足を運ぶ学生たち、そのレポートを読んで学生たちへの見方を変える著者。本書は著者が教育というものの面白さに目覚めていく過程なのである。著者がだんだん教育者に変貌していく、その様子が克明に描かれているのである。
 だから、本書は著者が意識しているかどうかは別にして、優れた教職論になっているのである。教職についている方や教職を目指している方は一読すべきである。教育者になるということの本質が本書にははっきりと書かれている。
 大学で講義をする落語家といえば上方では桂文珍がいるけれど、文珍の講義録とはまた違った(東京落語と上方落語の違いも含めて)興味深い講義録である。

(2001年7月20日読了)


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