舞台は平安時代。紀伊の国、荒那智で育った竜王と沙羅は幼心に惹かれあうものを感じていたが、不思議な力をもっているが故に傀儡使いの女に攫われてしまう。一座とともに都に行ってしまった沙羅を追い、竜王も都に。沙羅の顔を面に打つべく都に上り面打ちの修業に励む竜王だったが、師匠たる般若上人は下働きばかりさせて面を打たせてくれない。沙羅は大納言紀友成のもとに身を寄せ、その神秘的な舞いを友成のもとで完成させようとしていた。沙羅をわがものにしようと企む左大臣藤原忠長は奇怪な術を使う蛾蝋上人の力を借り、友成を失脚させる。蛾蝋上人の真の狙いとは。竜王は沙羅の面を打つことができるのか。そして、沙羅の持つ力が生み出すものとは……。
主人公の二人が架空の人物であることは特に問題はないが、彼らを取り囲む人物全てが架空の人物となると、話は違う。時代や場所を特定しているのだから、その歴史的事実をうまく取り入れて物語を進めていってほしかった。登場人物のモデルはだいたい推定できるのだが、それらが生きた年代が散らばっている。かと思うといきなり源頼光と四天王が登場したりして面喰らってしまう。作者にしたら平安朝オールスターキャストで物語を作り上げたかったのだろう。しかし、史実という制約のもとでダイナミックに物語を展開させるのが時代伝奇小説の妙味だろう。かえって中途半端になっているように感じる。
せっかくオールスターキャストで自由な物語にしようとしたにもかからず、設定ほどにスケールの大きさが感じられないのも苦しいところだ。総じて書き込み過ぎというような感じで、もっと刈り込んで構成をすっきりさせた方がよかったのではないだろうか。
次作こそ史実を巧みにとりいれた本格的な伝奇小説に挑戦してほしいものである。
(2001年7月22日読了)