元阪急ブレーブス(オリックスブレーブス、ブルーウエーブ)のエースで、40代でノーヒットノーランを達成した名投手による現役時代の回想と現在の野球への提言をまとめたもの。本人が話したものをライターがまとめたものと推測される。
怪我からの再起など豊富な実体験による野球への取り組み方は、建前だけでない面白さがある。例えば最近流行のウェイトトレーニングに対して、走ることがピッチングの動きにいかに理に適ったものであるかということを説明するかと思うと、酒を飲んだ翌日のトレーニングの方法にまで言及する。キャッチャーから送られるサインについて綿密に説明したあと、乱数表に「D」(ぶつけろ)というサインがあったことをさりげなく書いたりもしている。選手から見た理想の監督像、ベンチからの指示だけでプレーするのではなく自分たちで判断してプレーする必要性など、まさに「大人の野球」が語られているのである。
本書はよくある「球界内幕暴露本」ではない。上田監督時代の「阪急ブレーブス」という希有な「大人の野球」の集団ではぐくまれた著者の野球観を包み隠すことなく語ったユニークなプロ野球論なのである。どこか彼を一軍のコーチとして招くチームはないものだろうか。「大人の野球」を受け継ぐ若い選手を育ててほしいものである。
(2001年7月24日読了)