読書感想文


ネコノメノヨウニ…
田中啓文著
集英社スーパーダッシュ文庫
2001年7月30日第1刷
定価514円

 「Cobalt」誌に掲載されたホラー短編をまとめたもの。一匹の黒猫が各短編をつなげる役割を果たしてはいるが、基本的にはそれぞれが独立したものと考えてよいだろう。
 昭和のはじめ、降霊術ブームの最中に起こった女学生殺害事件をミステリータッチで描く「二度目の降霊術」、第二次大戦末期に都会から疎開してきた少年がその土地に伝わる信仰に踏み込んだ時に起こった事件を描く「火盗り蛾」、自分のドッペルゲンガーを見た少年の葛藤を描いたSF「影の病」、恋人と喧嘩した少年の前に現れたもう一つの世界の恋人が彼をその世界に誘う「滅びの夏」、息のあった室内楽の二人を引き裂こうとする女性のたてた企み「切れた弦」、恋人を救うために卵を運搬するロケットに乗り込んだ女性が卵に抱いた感情とは……「卵」、そして物語をつなぐ糸の役割を果たす「猫の眼のように…」がプロローグとエピローグとして配されている。
 本書は往年の良質なジュヴナイルSFの系譜につながる短編集ではないかと、一読して感じた。作者の本領であるグロテスク趣味が横溢しているとはいえ、各短編を構成する基本的なアイデアはごくオーソドックスなものである。そのあたり、発表媒体をかなり意識して書かれたものではないかと思われる。ただ、それぞれの短編の救いのなさなども発表媒体を意識してのもなのだろう。予定調和の世界を期待した読者を裏切る展開は安心して読める作品を求める読者層への挑戦ではないだろうか。
 私としてはこれらのペシミスティックなタッチに手塚治虫や福島正実の短編に通じるものを感じた。作者としては決してベストフォームとはいえないとは思うが、こういったオーソドックスなタッチのものをきっちりと読ませる力量の確かさを感じさせてくれる短編集である。

(2001年7月28日読了)


目次に戻る

ホームページに戻る