読書感想文


ヴァージン・ブラッディ−妖しの女教師
霜越かほる著
集英社スーパダッシュ文庫
2001年5月30日第1刷
定価514円

 喜島浩二は進学校に入学したばかりの高校1年生。遠距離の通学なので部活も熱心にやる気もない。父親の壊れたカメラを持っているというだけで写真部に入部することにした。同じクラスで人付き合いのない影のある少女、工藤深雪に声をかけた翌日、彼女は自宅のマンションから落下して死んでしまう。写真部のOGで教育実習生の出間忍はなぜか深雪の死に深い関心を持ち、その実家にまで浩二とともに調査に行く。その帰り、二人は工藤家のばあやフジノに襲われる。フジノは年齢からは考えられない俊敏さで忍を狙う。フジノ、深雪、そして忍に隠されている秘密とは。その秘密を知ってしまった浩二が巻き込まれた戦いの結末は……。
 吸血鬼に東洋的な伝説をからませ、そこに少し官能のエッセンスを味つけにした物語。甘酸っぱくなるような初恋のときめきがずぶりずぶりと大人の少しどろりとした恋愛に変化していくという現実的なテーマを伝奇的なアイデアに昇華させていくところなどに作者のうまさを感じる。思春期の青年にとっては生臭くなりがちな性愛というものだが、こういう書き方があったのかと感心した。ここらあたりはセンスの問題で、他の書き手には真似できないところなのかもしれない。
 一点気になるのは主人公の幼なじみが主要な登場人物として描かれているのだが、物語を進めるのには必要ではあっても特に重要な役回りにはなっていないこと。登場人物全てに有機的なつながりを求めるわけではないが、キャラクターとしてはかなりいい存在なのに、こういった扱いになるのはもったいない。人間関係をもう少し複雑に描いていけばもっと深みのあるストーリー展開になったと思うだけに、残念だ。

(2001年8月9日読了)


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