作者の初めてのミステリ短編集。「鬼」の異名を持つ刑事と陰陽師の呪法を使って事件を解決しようとするアメリカ帰りの刑事が活躍する連作である。
左右の眼球をほじくり出して入れ替えるという奇妙な死体が連続して発見される「鬼と呼ばれた男」。新興宗教の信者たちが突如自殺しようとしその死骸を警察より先に回収する連続犯罪を描く「女神が殺した」。蜘蛛館と呼ばれる家で末娘が蜘蛛を暗示させる姿で死んでしまう「蜘蛛の絨毯」。神社の宮司が一瞬のうちにミイラ化してしまう「犬の首」とそれぞれユニークな設定のものばかり。
トリックはミステリとしてはかなりまっとうなものであるが、そこは作者のことだから、伝奇的要素やホラーのエッセンス、地口などをミックスして普通のミステリとはひと味違うものに仕上げている。いわば「あ、やってるやってる」と田中啓文ファンを楽しませるつくりなのである。
本書の面白さのひとつには主人公である鬼丸刑事とその正体をあばこうとする芳垣刑事の駆け引きがある。ここではその正体をはっきりと書くのはやめておくが、鬼丸が正体を現して事件の真相に踏み込むところが従来のミステリにない仕掛けになっており、また、その部分が伝奇小説に対する作者の思いを示すものにもなっているのである。鬼丸はいわば「必殺仕事人」みたいな性格を与えられていて、それか読者のカタルシスにつながるようになっている。そこらあたり、うまいなあと思うのだ。
(2001年8月21日読了)