新シリーズの開幕。
大学生小美仁は自らの意に反して舟和教授直接の指名で次年度より教授のゼミに入ることになった。舟和ゼミは「呪われたゼミ」と噂される民俗学のゼミ。まだ新年度になっていないのに小美はゼミのメンバーといっしょに長崎県の小さな島、中恵島へフィールドワークに行くことになった。なにかというと小美をからかう永吉巧、知的な美人の古旗日和、気配りの細やかな勢多秀生、少々頑固な双屋諒市と浮き世離れした舟和教授。
中恵島は人口36人の小さな島だが、なぜか猫が大量に生息している。彼らはここで行われる魔王天の祭に関する調査を行うが、ゼミの卒業生でもある原田梗子の一人息子、智が不慮の事故で亡くなってしまう。赤ん坊が死んでも祭を中止にしない島民たちに不審を抱く小美たち。その上に智の顔をした猫を目撃し、祭に隠された秘密を感じとる。傷心の梗子のためにも秘密を探り出そうとするが、彼らはかえって島民に狙われる。祭に隠された秘密とは何か。彼らの知識を総動員してその秘密を探り当てた時、梗子は……。
民俗学ゼミのフィールドワークの対象が伝奇的な事件であるという設定が面白い。これならば土俗的な伝説などをモチーフにして起こる怪事件に主人公たちが常に巻き込まれるのにも必然性があるというものだ。扱われている事件も舞台を対馬沖の離島に置いたことにより、リアリティを増している。むろんゼミのメンバーを主人公にした以上、ここで扱われる知識は専門的でなければならない。そのハードルもしっかりとクリアしているように思う。
前作でも作者はキャラクターに寄り掛からずにストーリーを組み立てているが、本作もキャラクターの個性が少し弱い。設定からいうとキャラクターの個性が強烈であった方がもっと面白くなると思われるので、次巻以降はゼミのメンバーの個性がはっきりとあらわれるような形のストーリー展開になることを期待している。面白いシリーズになりそうだ。
(2001年8月23日読了)