読書感想文


DEKU 親愛なる来訪者
佐藤茂著
角川スニーカー文庫
2000年8月1日第1刷
定価514円

 地球文明が飽和状態に達したあと、人類は宇宙空間にいてデンキを地上に供給するエレコと農作物などを生産するアグリコに分かれており、お互いに交易をする関係を保っていた。アグリコは掘り出されたプラスチック廃棄物をエネルギーとして動くロボット、スレィバを使役することでデンキの消費を抑えている。スレィバは15年前に宇宙から落下してきたロボットで、人間に危害を加えない労働力であった。小村に住む少年エソラはスレィバのデクを友として育つ。しかし、餌となるプラスチック廃棄物が村にはなくなってきて、デクを処分する話が持ち上がる。村に住み着いていた風来坊のセルバの連れてきた牛のジェニファハあまりに人に慣れず役にたたないというので、こちらも売り飛ばされることに。二人は町へ行きそれぞれの友が処分されないように画策しようとする。湖の中から現れた謎の少女、ウデネが道中に加わる。町ではデクを見かけた一部のスレィバが変形してデクに襲いかかり、デクはこれをはねのける。追われる身となったデクをスレィバの楽園といわれる南方に連れていこうとエソラたちの新たな旅が始まる。スレィバを追ってあらわれる謎の影。スレィバが地球に落下してきた理由は何か。南でエソラたちを待ち受ける運命は……。
 これはおそらく壮大な未来史の一部ではないかと感じた。農耕中心の生活圏と工業中心の生活圏の対立やスレィバと呼ばれる地球以外の文明が生み出したロボットの存在など、異質なもののぶつかりあいから生まれる新たな関係という、いわば弁証法的な文化論がこの物語の背景にはある。行間を読ませるような密度の高い文章も含めて、ヤングアダルト文庫の読者層にはちょっと消化し切れないのではないかという気もするが、一見のどかに見える展開の裏に隠された緊迫感など、ヤングアダルトのふりをした大人向けのSF小説としていわばヤングアダルトと本格SFの橋渡し的な役割を果たしてくれないものかと期待したりもしている。

(2001年8月28日読了)


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