高校生を対象にしたセミナーの内容を一冊の本にまとめたもの。著者はここで研究者であり作家でもあるという立場から、〈文系〉と〈理系〉という固定観念を分析し、理系だから小説とは縁がない、文系だから科学に弱いという概念の嘘を明らかにする。さらに、自作の成立過程をわかりやすく説明することにより、科学を基盤にした小説を書く方法について自分の考え方を示す。
本書を読んで感じたのは、著者がまぎれもないSF作家であるということである。視点の相対化などの私がSFに感じる魅力を、著者はその小説を書く過程を明らかにする中でごく自然に行っている。また、このセミナーが行われた時点での著者が作家として自分の方向製を模索していることも読み取れた。はっきりと語ってはいないが、ホラーでデビューしホラー作家として見られているにも関わらず、人を怖がらせることよりも科学と空想の整合性を重視しているのである。ということは、この時点で既に著者はホラー作家の道よりもSF作家の道を歩み始めていたということができるだろう。
その当時の批評家に対する葛藤が語られているのも注目に値する。そして、読者へのリサーチをするなど書き手と読み手の関係にかなり心を砕いていることも。これはデビュー作から注目され続けてきた著者ならではの悩みを表しているものなのだろう。
本書の刊行から2年後の現在、著者はその葛藤をさらに深めてきている。その萌芽を本書から読み取れるのが私にとっては興味深い。もっとも、著者の現在の状況を念頭に置いて読むからそう感じられるのかもしれないが。
(2001年8月30日読了)